難産とは?医学的な定義
医学的に難産(遷延分娩・せんえんぶんべん)とされるのは、分娩にかかる時間が初産婦で30時間、経産婦で15時間を超える場合です。しかし実際の出産の現場においては時間だけでなく、母子の疲労度や胎児の心拍状況などを総合的に見て判断し、必要な対処がなされます。

難産になることの影響は
まず、お母さんの体力が激しく消耗することが挙げられます。
長時間にわたり陣痛と痛みが続くと、お母さんの体力と精神力は著しく消耗します。過度な疲労は、出産後の出血増加や子宮の戻りの悪さ(子宮復古不全)を引き起こす原因にもなるため、早期に休息や処置を検討することが推奨されます。
また赤ちゃんへの影響としては、分娩が停滞することで胎盤から赤ちゃんへ送られる酸素が不足し「胎児機能不全」を招くリスクがあります。赤ちゃんの心音計で常に状態をチェックし、異常の兆候が見られた場合は、一刻も早くお産の終了(娩出)を目指すことになります。
難産が起こる主な原因
難産の要因は大きく分けて「娩出力」「産道」「胎児」の3つに分類されます。これらが複雑に絡み合うことで、お産の進みが停滞します。自分のせいだと落ち込む必要はなく、身体的・物理的な要因が重なった結果であることを理解しましょう。
陣痛が弱くて子宮口が十分に開かない
「微弱陣痛」は、赤ちゃんを押し出すための子宮の収縮力が不足している状態です。お母さんの体力が消耗していたり、精神的な緊張が強かったりすると起こりやすくなります。お産を前に進めるために、エネルギー補給やリラックスを促す対応が必要です。
産道が狭くて赤ちゃんの通過を妨げる
骨盤のサイズに対して赤ちゃんの頭が通りにくい「児頭骨盤不均衡」や、産道の軟部組織が厚いことが原因となる場合があります。これらは事前の検査でわかることもありますが、お産が始まってから判明することも多く、慎重な経過観察が行われます。
赤ちゃんの向きやサイズ
赤ちゃんが産道を通る際、理想的な角度で回れない「回旋異常」が起きると時間がかかります。また、推定体重が大きい場合も物理的に通りにくくなるため難産のリスクが高まります。赤ちゃんの姿勢はお産が進む過程で変化するため、体位変換などで促します。
>分娩中に赤ちゃんは「回る」!? 難産につながる回旋異常のはなし
難産への対処法
手順1 陣痛促進剤で子宮収縮を促す
微弱陣痛が続く場合、点滴で陣痛促進剤を使用して陣痛を強めます。陣痛の強さと赤ちゃんの心拍をモニタリングしながら、安全に配慮して薬剤の量は慎重に調整します。自然な陣痛を後押しし、分娩の進行を効果的にサポートします。
手順2 器具を使い赤ちゃんを誘導する
子宮口が全開大しているものの、赤ちゃんの頭が途中で止まっている場合には、吸引分娩や鉗子分娩が選択されます。専用のカップや器具で赤ちゃんの頭をやさしく引き出すことで、最後の押し出しを助けます。母体の体力が尽きかけている時に有効な手段です。
手順3 緊急帝王切開へ切り替える
促進剤や器具を使っても進行が困難な場合や、赤ちゃんの心音に低下が見られた場合は、緊急帝王切開を行います。これはお産を最短で終わらせるための究極の安全策です。お腹を切ることに抵抗を感じるかもしれませんが、赤ちゃんの命を守る最善の選択です。
難産を防ぐために意識すべきポイント
適正な体重を維持する
急激な体重増加は、産道周りに脂肪がつく原因となり、赤ちゃんが通りにくくなります。医師の指導に基づいた適切な体重管理を心がけることで、スムーズな分娩の可能性を高められます。バランスの良い食事を楽しみながら、体調をコントロールしましょう。
股関節を柔軟にするストレッチを行う
骨盤周りの筋肉をほぐし、股関節を柔軟に保つことは、赤ちゃんのスムーズな降下を助けます。マタニティヨガや軽いストレッチを習慣にすると、お産の時に力を抜きやすくなるメリットもあります。無理のない範囲で、毎日少しずつ体を動かしてみてください。
よくある質問と回答
遺伝的な要因が影響する可能性はありますか?
- 難産そのものが遺伝するという医学的な根拠はありません。ただし、骨盤の形や体格などの身体的特徴が母親と似ている場合、お産の進み方が似る可能性はあります。遺伝について過度に心配する必要はありませんので、まずは自身の体調管理に努めましょう。
2回目以降の出産は進行が早まりやすいですか?
- 初産が難産だった方でも、2人目以降は一度赤ちゃんが産道を通っているため、スムーズに進むケースが多い印象があります。前回の状況を助産師や医師と共有しておくことで、より適切なサポート体制のもと分娩に臨むことができます。
高齢出産の場合は難産となる可能性が高まりますか?
-
年齢を重ねると産道の組織や子宮口が硬くなる傾向があり、分娩に時間がかかるリスクは高まります。ただし、現代の医療技術は進歩しており、リスクを想定した管理がしっかりと行われるため、年齢だけを理由に不安を募らせる必要は特別ありません。
医師からのメッセージ
難産はさまざまな要因が複合的に合わさることで起きます。お母さんの責任などと考えることはやめましょう。ご心配があれば、あらかじめ助産師外来等でスタッフへお伝えください。我々医療者はお母さんと赤ちゃんの安全を最優先として、あなたの出産がご自身とご家族様にとってかけがえのない体験となるよう全力でサポートします。
千葉西総合病院 産婦人科 幸本康雄
