妊娠・出産

分娩中に赤ちゃんは「回る」!? 難産につながる回旋異常のはなし

回旋異常とは?お産との関係

回旋異常(かいせんいじょう)とは、本来お産の過程で生じる産道通過時の胎児の身体の回旋に何らかの異常が生じることを言います。難産の原因の一つとされています。

赤ちゃんの正常な回旋

正常な分娩では、赤ちゃんは狭い産道を通過するために、頭を小さくし、体の向きを巧みに変えながら進みます。この一連の動きを「回旋」と呼びます。決して正円ではない産道の形に合わせて、頭や肩の向きを自分で変えながら、産道(骨盤)に引っかからないようにしながら生まれてきます。

回旋異常は珍しいこと?

回旋「異常」と聞くと不安になるかもしれませんが、すべてのお産が教科書通りに進むわけではありません。回旋異常の発生率は頭位(逆子ではない)分娩の4%程度になるという報告があり、決して珍しくはありません。

主な種類

回旋異常にはいくつかのパターンが存在します。赤ちゃんの頭が産道のどの位置で、どの方向を向いて止まってしまったかによって分類されます。

高位前方後頭位(こういぜんぽうこうとうい)

赤ちゃんの頭が骨盤の入り口で、通常とは異なる向き(前方)を向いたまま下降できない状態です。この状態が続くと分娩の進行が停止しやすくなります。

低在横定位(ていざいおうていい)

赤ちゃんの頭が骨盤の出口近くまで下降したものの、横を向いたまま止まってしまう状態です。正常であればこの位置で前を向く(後頭部が母体の背中側)はずですが、それが妨げられている状態です。

後方後頭位(こうほうこうとうい)

赤ちゃんが顔を上(母体のお腹側)に向けて生まれてこようとする状態です。通常は下(母体の背中側)を向きます。顔が上を向くと、赤ちゃんの頭の最も大きな部分が産道を通過する必要があり、お母さんの痛みが増したり、分娩に時間がかかったりする傾向があります。

原因

回旋異常の原因は一つではなく、赤ちゃん側、お母さん側、または分娩の経過そのものなど、様々な要因が関わっているとされています。

赤ちゃん側の原因

赤ちゃん自身が原因となるケースです。例えば、赤ちゃんが通常より大きい(巨大児)場合や、頭の形、胎位(逆子などではないか)が影響することがあります。また、へその緒が首に巻き付いている(臍帯巻絡)ことが回旋を妨げる場合もあります。

お母さん側の原因

お母さん側の身体的な特徴が影響する場合もあります。骨盤が狭い、または特殊な形をしている(狭骨盤)、子宮筋腫や子宮奇形がある、といった要因が赤ちゃんのスムーズな回旋を妨げることがあります。

分娩の経過によるもの

お産の進み方自体が原因となることもあります。陣痛が弱い(微弱陣痛)、陣痛が強すぎる(過強陣痛)、早い段階で破水してしまう(早期破水)などは、赤ちゃんの正常な回旋を阻害する要因となり得ます。

診断方法

分娩が思うように進まない場合、その原因が回旋異常かどうかを調べるためにいくつかの検査や診察が行われます。

内診

医師や助産師が、指で赤ちゃんの頭の位置や向き、産道との関係を直接確認する方法です。お産の進行度を把握する基本的な診察であり、回旋異常の多くはこの内診によって判断されます。

超音波検査(エコー)

内診だけでは赤ちゃんの頭の向きや位置が正確に分からない場合、超音波検査(エコー)が用いられます。エコーを使うことで、赤ちゃんの頭が骨盤の中でどの方向を向いているかを視覚的に確認できます。これにより、より正確な診断が可能になります。

対処法

もし回旋異常が起きた場合、医療スタッフはどのように対応するのでしょうか。状況に応じて、お産を安全に進めるためのいくつかの方法が選択されます。

陣痛促進剤

陣痛が弱いために回旋異常が起きていると考えられる場合、陣痛促進剤を使用して陣痛を強め、赤ちゃんの回旋と下降を促すことがあります。

用手回旋(ようしゅかいせん)

医師が直接赤ちゃんの頭に触って、頭の向きを正常な状態にする(回旋させる)ことがあります。

吸引分娩や鉗子分娩

赤ちゃんの頭が産道の出口近くまで下降しているにも関わらず、あと一息で出てこられない場合、吸引カップで赤ちゃんの頭を引っ張る「吸引分娩」や、鉗子という器具で助ける「鉗子分娩」が行われることがあります。これらは緊急帝王切開と併せて急速遂娩(きゅうそくすいべん)と呼ばれ、早く赤ちゃんを出す必要があると判断された場合に行われる緊急的な手段です。

緊急帝王切開への切り替え

上記の対処法を試みても分娩の進行が見られない場合や、お母さんまたは赤ちゃんの状態が悪化した場合は、速やかに緊急帝王切開に切り替えます。母子の安全を守るための最も確実な手段であり、必要と判断される場合に選択されます。

分娩や赤ちゃんへの影響

回旋異常と診断された場合、お母さんや赤ちゃんにどのような影響があるのでしょうか。多くの妊婦さんが最も心配される点です。

難産や分娩遷延

回旋異常が起こると、赤ちゃんが産道をスムーズに通過できないため、分娩に通常より長い時間がかかる「分娩遷延(ぶんべんせんえん)」や、お産が非常に困難になる「難産」となる可能性が高まります。その場合、お母さんの体力の著しい消耗や、産後の出血が多量になることがあるほか、稀ではありますが子宮破裂に繋がる可能性があります。

分娩停止と帝王切開

回旋異常によって赤ちゃんの下降が完全に止まってしまう「分娩停止」に陥ることがあります。この状態が続き、経腟分娩が困難と判断された場合は、お母さんと赤ちゃんの安全を最優先し、緊急帝王切開に切り替える判断がされます。

赤ちゃんへの負担

分娩が長引くと、赤ちゃんも産道で圧迫される時間が長くなり、ストレスがかかります。その結果、赤ちゃんの心拍数が低下するなど、苦しがっているサイン(胎児機能不全)が見られることがあります。こうしたサインが確認された場合は原則として胎児の安全確保のため、緊急帝王切開による分娩への切り替えがされます。

回旋異常は予防できる?

残念ながら、回旋異常を確実に防ぐ方法は現在のところありません。前述の通り、原因は様々であり、お産の経過の中で偶発的に発生することも多いためです。

ただし、直接的な予防法はないものの、間接的なリスクを減らす努力は可能です。例えば、妊娠中の急激な体重増加は、産道周囲の脂肪を増やし分娩の難易度を上げる可能性があるとともに赤ちゃんが大きくなりすぎる(巨大児)原因の一つとなり得ます。また、定期的な妊婦健診により赤ちゃんの大きさや子宮に対する向き、骨盤の状態などのチェックを受けることも大切です。

医師からのメッセージ

回旋異常は難産の一因となり得ますが、過度に心配する必要はありません。分娩中は医療スタッフが常に赤ちゃんの状態をモニタリングしています。異常が確認された場合は、体位変換、用手回旋、吸引・鉗子分娩、あるいは安全最優先での帝王切開など、適切な医療的介入を速やかに行う体制が整っています。現代の周産期医療では、母子の安全を確保するために万全の準備をしています。私たち専門医と助産師がチームでサポートしますので、安心してお産に臨んでください。

千葉西総合病院産婦人科 幸本康雄