妊娠初期の激しい腹痛は要注意!?子宮外妊娠のあれこれ

子宮外妊娠とは?正常な妊娠との違い

子宮外妊娠(異所性妊娠)とは、受精卵が子宮内膜(子宮の内側)以外の場所に着床してしまう状態を指します。正常な妊娠では、受精卵は卵管を通って子宮内に到達し、そこで着床して発育します。しかし、子宮外妊娠では卵管や卵巣、腹膜などに着床してしまうため、残念ながら妊娠を継続することはできません。

子宮外妊娠は、決して稀なことではなく、全妊娠のうち、約1%~2%が子宮外妊娠であると推計されています。これは、妊娠した女性の50人から100人に1人が子宮外妊娠であるという計算となります。つまり、誰にでも起こり得ることであり、決してご自身を責める必要はありません。

子宮外妊娠の種類

正常な妊娠のプロセスとは

正常な妊娠は、まず卵巣から排卵された卵子が卵管内で精子と出会い受精します。受精卵は細胞分裂を繰り返しながら卵管内を移動し、約1週間かけて子宮に到達します。そして、胎児を育てるために厚くなった子宮内膜に着床し、発育を開始します。この子宮内膜への着床が、正常な妊娠のスタート地点です。

子宮外妊娠が起こる場所

子宮外妊娠の約95%以上は、卵管内で着床が起こる「卵管妊娠」です。受精卵が子宮までたどり着けずに、卵管の途中で着床してしまいます。他にも、稀ではありますが卵巣や子宮頸管、腹膜(お腹の中)などに着床するケースもあります。どの場所であっても、子宮内膜以外では胎児は正常に発育できず、母体にも危険が及びます。

子宮外妊娠から分娩はできません

子宮外妊娠が分娩に至ることはありません。なぜなら、子宮以外の場所(特に卵管)は、胎児の成長に合わせて大きく広がるようにはできていないからです。妊娠が週数を重ねると、着床した部分が胎児の成長に耐えきれなくなり、組織が破裂(卵管破裂など)してしまう危険性が非常に高くなります。そうなると大量出血を引き起こし、お母さんの生命に危険が及ぶため、そうなる前に治療が必要となります。

主な症状

子宮外妊娠の初期症状は、正常な妊娠と見分けがつきにくいことが多いと言われています。妊娠検査薬で陽性反応が出るほか、生理の遅れや軽い下腹部痛、少量の性器出血(茶色っぽいおりものなど)といった、妊娠初期によく見られる兆候が出現します。しかし、週数が進むにつれて特徴的な症状が現れることがあります。

腹痛の特徴

子宮外妊娠が進行すると、着床部位に痛みが出始めます。特に卵管に着床した場合、下腹部の左右どちらかにチクチクとした痛みや、引っ張られるような違和感を感じることがあります。痛みが徐々に強くなる、または突然の激しい腹痛が起きた場合は、卵管流産や破裂の兆候かもしれず、非常に危険な状態です。

不正出血(色や量)

子宮外妊娠では、少量の性器出血が持続的に見られることがあります。色は茶褐色であったり、鮮血が少量であったりと様々です。正常な妊娠初期の着床出血と似ていることもありますが、生理のようにまとまった出血にはならないことが多いのが特徴です。だらだらと続く出血には注意が必要です。

卵管破裂時の危険なサイン

最も危険な状態が卵管破裂です。突然の激しい下腹部痛、冷や汗、めまい、吐き気、意識が遠のくなどのショック症状が現れます。これは腹腔内で大量出血が起きているサインであり、緊急の対応が必要です。

子宮外妊娠の原因は?

子宮外妊娠は、受精卵が卵管を通って子宮へ移動するプロセスが何らかの原因で妨げられることによって発生します。なぜ正常な移動ができないのか、その明確な原因は不明な場合も多いのですが、特定のリスク因子が関わっていることが知られています。

卵管の通過障害

最も多い原因は、卵管の炎症や癒着による通過障害です。過去にクラミジアなどの性感染症にかかり、卵管炎や骨盤内腹膜炎を起こしたことがあると、卵管が狭くなったり、卵管采(卵子をキャッチする部分)の動きが悪くなったりして、受精卵が子宮に到達しにくくなります。

過去の手術歴の影響

過去に子宮外妊娠を経験し、卵管の手術(特に卵管温存手術)を受けたことがある場合、その卵管が再び子宮外妊娠を起こすリスクは高まります。また、虫垂炎(盲腸)の手術や帝王切開、子宮筋腫の手術など、骨盤内の手術によって卵管周囲に癒着が起こることも原因となり得ます。

不妊治療(体外受精)との関連

体外受精(IVF)などの生殖補助医療(ART)によって妊娠した場合、子宮外妊娠の発生率が自然妊娠よりもやや高くなることが報告されています。これは、胚を子宮に戻す際に卵管に入り込んでしまうことや、不妊の原因自体が卵管因子であることなどが関連していると考えられています。

喫煙や年齢などの生活習慣

喫煙は、卵管の動き(蠕動運動)や卵管采の機能を低下させ、受精卵の輸送を妨げるため、子宮外妊娠のリスクを高めることが知られています。また、年齢が上がるにつれて(特に35歳以上)子宮外妊娠のリスクも上昇する傾向があります。

検査・診断方法

超音波検査(エコー)

子宮外妊娠の診断において最も重要な検査が超音波(エコー)検査です。通常、妊娠5週目頃になると子宮内に胎嚢が確認できます。この時期になっても胎嚢が見えない、あるいは子宮以外の場所(卵管や卵巣付近)に胎嚢らしきものが見える場合、子宮外妊娠の可能性が高まります。

血液検査(hCG値)の測定

妊娠するとhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)というホルモンが分泌されます。正常な妊娠では、hCG値は妊娠初期に急速に増加します(約2日で倍増)。しかし、子宮外妊娠の場合はhCGの増加が緩やかであったり、数値が低かったりする傾向があります。超音波検査と合わせてhCG値の推移を見ることで、診断の助けとなります。

子宮外妊娠の治療法

治療法は、hCG値、胎嚢の大きさ、症状(腹痛や出血の有無)、破裂のリスクなどを総合的に判断して決定されます。主として待機療法、薬物療法、手術療法があります。なお、子宮外妊娠の治療は、基本的に健康保険が適用され、高額療養費制度の対象となります。

比較的状態が安定している場合の治療

hCG値が低く、自然に流産(吸収)される可能性が高い場合は待機療法が選ばれることがあります。また、一定の条件を満たせば、メトトレキサート(MTX)という抗がん剤の一種を投与する薬物療法を行う場合があります。

緊急性やリスクが高い場合の治療

hCG値が高い、胎嚢が大きい、または破裂の兆候がある場合は手術が必要です。現在は、体の負担が少ない腹腔鏡手術が主流です。卵管を切開して胎嚢のみを取り除く「卵管温存手術」と、卵管ごと切除する「卵管切除術」があります。緊急時や癒着がひどい場合は開腹手術が選択されることもあります。

子宮外妊娠が次の妊娠や分娩に与える影響

治療後の妊娠について

子宮外妊娠の治療を受けても、多くの場合、将来の妊娠は可能です。ただし、妊孕性(にんようせい・妊娠のしやすさ)は治療法によって左右されることがあります。例えば、卵管切除術を受けた場合、妊娠可能な卵管が一つになります。しかし、反対側の卵管が正常であれば、自然妊娠の可能性は十分にあります。卵管温存手術の場合も、手術した卵管が再び機能するかは状態によります。

子宮外妊娠の再発リスク

一度子宮外妊娠を経験すると、次回の妊娠で再び子宮外妊娠を起こすリスクは、経験していない人に比べて高くなります(一般的に約10%~15%程度と言われます)。これは、子宮外妊娠の原因となった卵管の状態が改善されていない場合があるためです。

将来の分娩方法への影響

子宮外妊娠の治療(手術)が、将来の「分娩方法」に直接影響することは基本的にありません。子宮外妊娠の手術は主に卵管や腹腔内で行われるため、分娩時に赤ちゃんが通る子宮や産道に影響を与えることは稀です。したがって、子宮外妊娠の経験があること自体が、帝王切開の理由になることは通常ありません。

よくある質問と回答

妊活はいつから再開できますか?
    妊活を再開する時期は、治療法によって異なります。手術療法の場合、一般的には術後の回復状態を見て、数回の生理を見送った後(3ヶ月程度)が目安とされます。薬物療法(MTX)を受けた場合は、薬の成分が完全に体外に排出されるまで、通常3~6ヶ月程度の避妊期間が必要です。必ず医師の許可を得てから再開してください。

妊活を開始する前に何か検査は必要ですか?
    次の妊娠を計画する前に、残っている卵管の状態(通過性や癒着の有無)を確認するために、卵管造影検査を勧められることがあります。特に卵管温存手術を受けた場合や、反対側の卵管の状態も確認したい場合に有効です。検査結果によって、今後の妊活の方針(タイミング法、人工授精、体外受精など)を検討します。
次の妊娠で気をつけることは?
    子宮外妊娠の既往がある方が次に妊娠した場合、それが正常な子宮内妊娠であるかをできるだけ早く確認することが非常に重要です。子宮外妊娠の再発リスクがあるため、妊娠検査薬で陽性が出たら、すぐに(妊娠5週目頃を目安に)産婦人科を受診し、超音波検査で胎嚢の位置を確認してもらってください。

医師からのメッセージ

子宮外妊娠は、受精卵が子宮内膜以外の場所に着床してしまう病気です。場合によっては大量出血のリスクがあり、緊急手術が必要になることもあります。これは決してあなたの行動や努力不足のせいではありません。現在の医学をもってしても原因の特定が難しい場合が多く、ご自身を責める必要は全くありません。

性交渉の経験がある女性で、月経の遅れや不正出血、腹痛がある場合は、迷わずすぐに産婦人科を受診してください。適切な時期に適切な治療を受ければ、多くの場合、将来的に健康な妊娠・出産を望むことが可能です。私たちは、あなたの命と次の妊娠という希望を全力でサポートします。

千葉西総合病院産婦人科医師 幸本康雄