
無痛分娩(むつうぶんべん)とは麻酔を使って痛みを抑えながら行う分娩の方法のこと。「お産は痛みに耐えてこそ」という固定観念にとらわれず、現代では「痛みを和らげ、リラックスして赤ちゃんを迎える」という選択肢が広がっています。しかし、「本当に痛くないの?」「たくさんお金が掛かるのでは?」など、いざ検討するとなると多くの不安や疑問が浮かぶのではないでしょうか。今回は、後悔のない出産の選択ができるよう、みなさんからよくあるご質問とその回答を主として無痛分娩について解説します。
無痛分娩とは
麻酔薬を用いて陣痛や出産に伴う痛みを和らげながら赤ちゃんを産む方法のことです。主に「硬膜外麻酔(こうまくがいますい)」という手法が一般的で、背中の神経の近くに細いチューブを入れ、そこから持続的に麻酔薬を注入します。お産に伴う痛みを効果的に遮断しますが、お母さんの意識は保たれます。
よくあるご質問とその回答
お母さんからよくいただくご質問について解説します。不安や疑問を解消して納得して分娩方法を選択するヒントにしてください。
メリットはなんですか?
最大のメリットは痛みの軽減です。痛みが抑えられるとお産による疲労が軽減し、産後の体力回復が早くなります。
陣痛が始まってから赤ちゃんが生まれるまでにかかる平均的な時間は、一般的に約6時間〜8時間とも言われています(経産婦の場合)。長時間にわたる分娩を痛みをコントロールしながら進められることは非常に安心できますよね。
本当に痛みはなくなるの?
誤解されている方も多いのですが、無痛分娩は痛みをゼロにするものではなく「痛みを和らげて最小限の痛みとする」ものです。
お産の痛みは分娩の進行に従って強くなっていきますが、通常分娩の場合の一番強い痛みを8~10とした場合に、無痛分娩では2〜3程度となります。分娩の初期から終盤まで、強い痛みは感じないように麻酔で調整を行います。
お腹を痛めて産まないと愛情が薄れる?
母親が我が子に対して愛おしさを感じるのは、お産の「痛み」によるものではなく、出産後の我が子とのスキンシップや関わりによって分泌される「オキシトシン」というホルモンによるものであることが脳科学的に証明されています。無痛分娩であっても、出産後に我が子を抱きしめた瞬間にこの幸福のホルモンは大量に分泌されます。
もし「痛みの強さ=愛情の深さ」という説が正しいとすれば、麻酔を使用する帝王切開で出産したお母さんや、無痛分娩が主流であるフランスやアメリカなどの国々のお母さんは、子どもへの愛情が薄いということになってしまいますが、当然そんな事実はありません。
「お腹を痛めて産まないと、我が子への愛情が薄れる」という言説は完全な迷信ですので、周りの目を気にせず、ご自身が納得のいく安心なお産を選んでください。
背中に針を刺すのが怖いのですが、、、
無痛分娩では主として使われる「硬膜外麻酔」という麻酔方法、この麻酔の手順として、まずは皮膚に「局所麻酔」をします。歯医者さんの麻酔と同じようなごく細い針を使って行う痛み止めの注射です。これによって背中の感覚が麻痺するため、その後の本番の処置での痛みはほとんど感じなくなります。続いて、本番の針(硬膜外針)を慎重に穿刺します。「背中を押されているな」といった重い感覚はありますが、局所麻酔が効いていますので「強い痛みや鋭い痛み」はありません。針が「硬膜外腔」というスペースに届いたら、その針を通して細くて柔らかいカテーテル(チューブ)を挿入します。カテーテルが無事挿入されたら針はすぐに抜きます。
痛いのは最初のチクッとする皮膚の局所麻酔だけです。出産中に背中に残っているのは針ではなく、細くて柔らかいチューブ(カテーテル)のみです。仰向けの姿勢になったり、寝返りを打っても痛くありませんのでご安心ください。
麻酔で副作用や合併症が出ないか心配です
無痛分娩は十分に安全性は確保されていると言われていますが、副作用や合併症は皆無ではありません。まずは比較的多い合併症として頭痛(1〜8%程度の確率で起こる)と足のしびれが知られています。これらは適切に対処することで10日から数週間程度で良くなることがほとんどです。極めて稀で重い合併症として、高位麻酔があります。くも膜下腔と言われる箇所に麻酔薬が入ってしまうことで起こるもので、処置をしないと呼吸停止に至る場合もあります。
当院では、無痛分娩の進行中は、血圧計や酸素モニターにより母子の状態を常に厳重に監視しています。万が一合併症の兆候があれば、迅速に対応できる医療体制を整えていますので、過度に心配をせず、リラックスしてお産に臨んでいただければと思います。
麻酔はいつからはじまるのでしょうか?
分娩初期から麻酔を開始すると分娩の進行が停滞してしまいます。そのため、麻酔開始はある程度の痛みが出てきてからとなります。強い痛みを感じず、ただし分娩は適切に進むように麻酔科医が麻酔の調節を行います。
トータルでかかる費用はどうなりますか?
当院の場合、大部屋利用の方は58万円(基本分娩料金50万円+無痛分娩費用8万円)となります。個室利用の方は個室料金102,000円~が別途追加されます。健康保険組合に加入の方は出産に伴い、出産育児一時金50万円が受け取れますので、実際の負担額は上記の金額からこの50万円を引いた額となります。
※入院日数や診療内容によって金額の変動があります。
無痛分娩の費用は医療費控除の対象になりますか?
まず前提として「出産に関する費用」は医療費控除の対象となります。また、無痛分娩に関する費用は「出産に関する費用」に含まれます。
「出産に関する費用」は出産した翌年以降に医療費控除の申請(確定申告)を行うことで、支払った税金の一部が戻ってくる可能性があります。ちなみに、通院にかかった交通費もメモ(日付・区間・金額)を残しておくと控除対象になります。
最終的な税金の還付額は世帯の総所得によって異なるため、詳細な税金の計算については管轄の税務署へご確認ください。
麻酔管理責任医師からのメッセージ
当院の無痛分娩はお母さんと赤ちゃんの「安全」を最優先に考えています。
麻酔科専門医としての知識と経験に基づき、厳密なモニタリングと適切な麻酔管理を行うことで合併症のリスクを最小限に抑えます。
皆様が安心して、新しい命との対面という素晴らしい瞬間を穏やかに迎えられるよう、私たちは誠心誠意サポートいたします。
麻酔科主任部長 關根 一人
最後に
無痛分娩は、お母さんが笑顔で赤ちゃんを迎えるための大切な選択肢の一つです。出産の痛みを和らげることは決して逃げではなく、産後の育児を元気な体でスタートするための前向きな準備と捉えるべきものです。当院では安全を最優先に、産婦人科医師と麻酔科医師、助産師が万全の体制であなたのお産をサポートします。不安や疑問、迷いも含めて、まずは妊婦健診や助産師外来の際にいつでもお気軽に私たちへご相談ください。
