子宮脱は妊娠と出産が原因?産後の症状と予防法

子宮脱は骨盤臓器脱の一つ

子宮脱(しきゅうだつ)とは、子宮が正常な位置から下がり、腟から外に出てしまう状態のことです。これは骨盤内の臓器(子宮、膀胱、直腸など)を支える骨盤底筋や靭帯が緩むことで起こる「骨盤臓器脱」の一種です。出産経験のある女性の3人に1人程度が経験するとも言われ、特に中高年の女性に多い悩みです。

骨盤臓器脱の種類

脱出する臓器の種類により、子宮脱(腟断端脱)、膀胱瘤、直腸瘤などがあり、これらが合併して発生することもあります。

主な症状

股間に感じる違和感や下垂感

「何かものが挟まっている感じがする」「お風呂で洗うときに丸いものに触れた」といった訴えが最も多い初期症状です。立っている時や、お腹に力が入ると症状が強くなる傾向があります。夕方になると悪化することも特徴です。

尿に関するトラブル(尿漏れ・残尿感)

子宮と一緒に膀胱も下がる(膀胱瘤)ことが多いため、尿のトラブルが起こりやすいです。「尿が出にくい」「排尿後もスッキリしない(残尿感)」「くしゃみや咳で尿が漏れる(腹圧性尿失禁)」といった症状が現れます。

便に関するトラブル(便秘・排便困難)

直腸が下がること(直腸瘤)も合併しやすく、便秘や排便困難の原因となります。いきんでも便が出にくかったり、残便感があったりします。腟側から指で押さえないと排便できないケースも見られます。

子宮脱はなぜ妊娠・出産で起こる?

子宮脱の最大の原因の一つは、妊娠と出産による骨盤底筋へのダメージです。加齢による筋力低下も要因ですが、特に分娩時のいきみや胎児が産道を通る際の物理的な負荷が、骨盤底を支える組織を傷つけ、緩ませてしまいます。

出産による骨盤底筋へのダメージ

分娩時、胎児が狭い産道を通過する際、骨盤底筋群は極度に引き伸ばされます。また、長時間のいきみや吸引分娩、鉗子分娩などは、筋肉や靭帯、神経に通常以上の負荷をかけます。このダメージが産後十分に回復しないと、将来的な子宮脱のリスクが高まります。

妊娠中の継続的な負荷

妊娠期間中は胎児や羊水、大きくなった子宮の重さが継続的に骨盤底筋にかかり続けます。この持続的な負荷も、骨盤底筋を疲労させ、緩ませる一因となります。特に妊娠後期は、その負担が最大になる時期です。

リスクを高める出産(難産・多産)

出産回数が多い(多産)ほど、骨盤底筋は繰り返しダメージを受けるため、子宮脱のリスクは高まります。また、一回の出産でも、分娩時間が長かった場合や、体重の大きな赤ちゃんを出産した場合(巨大児分娩)は、骨盤底への負担が大きく、リスクが上昇します。

産後に気づきやすい子宮脱のサイン

産後すぐは会陰切開の痛みなどで気づきにくいですが、産後数ヶ月から数年経って違和感を覚えることが多いです。「産後しばらくして尿漏れが始まった」「入浴時に何か触れるようになった」などの症状は子宮脱の初期サインである可能性があります。

症状が出始める時期の目安

症状が出る時期は個人差が非常に大きいです。産後1ヶ月健診で軽度の下垂を指摘される場合もあれば、数年後、あるいは閉経後に症状が顕著になる場合もあります。産後の無理な運動や、重いものを持つことも症状悪化のきっかけになりやすいです。

妊娠中・産後にできる予防法

骨盤底筋トレーニング

骨盤の底にある筋肉(骨盤底筋群)を動かす体操です。妊娠中から行うことで、失禁などの妊娠中のマイナートラブルを予防できるほか、産後の回復を早める効果も期待できます。なお、産後は、医師の許可(通常は産後1ヶ月頃)を得てから開始します。

1. 仰向けもしくは椅子に座り、楽な姿勢をとります。

2. 肛門、尿道、腟全体を締めます。陰部全体をゆっくりと引き上げる感じで締めましょう。

3. そのまま5秒から10秒キープします。

4. ゆっくりと力を抜き、リラックスします。これを10回1セットとして、1日に数セット行います。

腹圧をかけない日常生活の工夫

重いものを持ち上げたり、強くいきんだりする動作は腹圧を高め、骨盤底に負担をかけます。産後は特に重いものを持つことを避け、便秘にならないよう食生活を整えることが重要です。咳やくしゃみも腹圧を高めるので、原因となる病気があれば早めに治療することを心がけましょう。

治療法

子宮脱の治療法は、症状の程度や年齢、今後の出産希望の有無などを考慮して決定されます。産後の場合、まずは骨盤底筋体操などの保存的治療が第一選択となることが多いです。症状が重い場合は、手術も検討されます。

保存的治療(体操・ペッサリー)

症状が軽度の場合や、まだ次の妊娠を希望する場合は、保存的治療を行います。骨盤底筋トレーニングの継続に加え、腟内に「リングペッサリー」という器具を挿入し、子宮が下がらないように支える方法があります。ただし、ペッサリーは定期的な交換・管理が必要です。

手術療法

保存的治療で改善しない方や、症状が重く日常生活に支障が出ている方で、今後の出産を希望しない方は手術が検討されます。メッシュを使用するロボット手術(腹腔鏡下手術)や腟口から行う手術など、いくつかの術式があります。

よくある質問と回答

妊娠中に症状が悪化する可能性はありますか?
    妊娠が進行すると、胎児の成長と共に子宮が大きくなり、骨盤底への圧迫が強まります。そのため、子宮脱の症状である下垂感や違和感が、妊娠前よりも強く感じられることがあります。妊娠中はペッサリーの使用が難しい場合もあり、安静を指示されることもあります。
子宮脱は次の妊娠・出産に影響しますか?
    子宮脱があっても、基本的には妊娠・出産は可能です。ただし、妊娠中は子宮の重みで症状が悪化しやすいです。また、出産時に再び骨盤底筋に負担がかかるため、出産後に子宮脱が進行するリスクも考慮する必要があります。
子宮脱があっても出産はできますか?
    子宮脱がある場合、経腟分娩は骨盤底にさらなる負担をかける可能性があります。そのため、症状の程度によっては帝王切開が選択される場合もあります。ただし、帝王切開が必ずしも子宮脱の進行を防ぐわけではないため、医師との十分な相談が必要です。

医師からのメッセージ

子宮脱は妊娠、出産による骨盤底筋群のダメージが原因の一つとなる病気です。当院では専門医による診療を提供しており、リハビリスタッフによる骨盤底筋トレーニングの指導や、必要な場合には手術支援ロボットを使う体に優しい手術も実施しています。気になる症状があれば、まずは当院の女性骨盤底外来を受診ください。

千葉西総合病院産婦人科 幸本康雄

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