胎位異常とは?
「胎位異常(たいいいじょう)」とは子宮の中での赤ちゃんの身体の向きが正常と異なる状態を指します。異常と言われるとご不安に思われるかもしれませんが、決して珍しいことではありませんので過度に心配される必要はありません。妊娠中期までは胎位は頻繁に変わりますので、検診時に異常であることは珍しくありません。出産に向けて週数が進むと正しい姿勢に落ち着くことも多いのですが、約5%程度の確率で胎位異常のまま分娩を迎えると言われています。分娩20件に1件は胎位異常となる計算ですので、決して少なくはないことがお分かりいただけるかと思います。
赤ちゃんの位置や姿勢が正常と異なる状態とは?
お腹の中の赤ちゃんは、出産に向けて準備をするため、通常は頭を下にし、顎を引いて丸まった姿勢をとります。これを「頭位(とうい)」と呼びます。頭は体の中で一番大きく硬い部分であるため、最初に頭が産道を通ることで、その後の体や足がスムーズに通りやすくなるのです。
これに対し「胎位異常」とは、赤ちゃんの頭が下を向いていないなど、正常な姿勢以外(頭位以外)の状態全般を指す言葉です。
胎位異常の主な種類
母子手帳やエコー写真に書かれている用語が、どのような状態を示しているのか解説します。

最も頻度が高く「逆子」と呼ばれる骨盤位
胎位異常の中で最も頻度が高いのが「骨盤位(こつばんい)」です。一般的には「逆子(さかご)」として知られています。赤ちゃんの頭が上(お母さんの胸側)にあり、お尻や足が下(骨盤側)にある状態です。骨盤位には、膝を伸ばしてお尻が先になる「単殿位(たんでんい)」や、あぐらをかいたような「全複殿位」などいくつかの種類があります。頭よりも小さく柔らかいお尻や足が先に産道を通ることになるため、最後に大きな頭がつかえてしまったり、破水した際にへその緒が先に外に出てしまったりするリスクがあり、慎重な管理が必要です。
赤ちゃんの背骨が横向きになる横位
「横位(おうい)」とは、赤ちゃんがお母さんの背骨に対して垂直、つまり真横になっている状態です。赤ちゃんの背中や肩が骨盤の入り口を塞ぐような形になります。この状態のままでは、赤ちゃんは産道を通ることができません。妊娠後期まで横位が続く場合は、経腟分娩は困難であり、お母さんと赤ちゃんの安全を守るために帝王切開が選択されます。
頭は下だが顔や額が先になる胎勢の異常
頭が下にある場合でも、姿勢によっては異常とされることがあります。「顔位(がんい)」や「額位(がくい)」と呼ばれる状態です。通常、赤ちゃんは顎を胸につけて小さく丸まっていますが、顎を上げて顔や額を産道の方向に向けてしまっているケースです。
こうなると、頭の通過する面積が大きくなってしまうため、お産がなかなか進まない原因になることがあります。
お産の進行中に判明する回旋異常
妊娠中の検診では「頭位」と診断されていても、いざお産が始まってからスムーズに進まなくなることがあります。これを「回旋異常(かいせんいじょう)」と言います。赤ちゃんは産道を通り抜ける際、骨盤の形に合わせて体を上手に回転(回旋)させながら降りてきます。この回転が途中で止まったり、通常とは違う向きになったりすると、お産が長引くことがあります。
>分娩中に赤ちゃんは「回る」!? 難産につながる回旋異常のはなし
原因
赤ちゃんに起因するものやお母さんに起因するものなど、原因は様々です。明白な原因がないことも少なくありません。いずれにせよ、お母さんが無理をしたから、体を冷やしたからなどが直接的な原因になることは医学的には証明されていません。
お母さん側
お母さんの体の特徴が影響することがあります。例えば、子宮の形が細長かったり、子宮筋腫があって赤ちゃんの動けるスペースが狭かったりする場合です。また、胎盤が子宮の低い位置にある「前置胎盤」や「低置胎盤」の場合も、赤ちゃんの頭が骨盤に入りにくく、胎位異常になりやすい傾向があります。
赤ちゃん側
赤ちゃん側の事情もあります。双子(多胎妊娠)の場合はお腹の中が窮屈で動きにくいため、位置が定まりにくくなります。また、羊水が多すぎると赤ちゃんが動きすぎて位置が固定されなかったり、逆に少なすぎると回転できずに逆子のままになったりすることもあります。へその緒が短い、首に巻き付いているといった事情で動けないケースもあります。
原因不明の場合も
検査をしても、上記のような明らかな原因が見つからないことも実は非常に多くあります。赤ちゃんが偶然その向きで居心地が良かった、ただ回るタイミングを逃してしまった、といったことが考えられます。
診断時期・方法
妊娠30週以降の診断
妊娠中期(28週頃まで)に「逆子ですね」と言われても、あまり心配する必要はありません。この時期は赤ちゃんに比べて羊水の量が多く、赤ちゃんは頻繁に回転しているからです。しかし、体が大きくなってくる妊娠30週〜32週頃になると、羊水の中での動きが制限され、胎位が固定され始めます。そのため、一般的には妊娠30週以降の検診で胎位異常と診断されるかどうかが重要とされます。
妊婦健診のエコー検査や内診
基本的には、妊婦健診で行う超音波(エコー)検査で診断します。赤ちゃんの頭の位置、背骨の向き、足の位置などをモニターで確認します。 また、必要に応じて内診を行い、医師が直接指で触れて、頭やお尻など何が一番下にあるか(先進部)を確認することもあります。これにより、お産の進め方を具体的に検討していきます。
胎位異常(逆子)は治る?対策と治療
「できれば自然分娩で産みたい」と願う方のために、妊娠中に検討できる対策について解説します。
出産直前に自然に戻る可能性
妊娠30週で逆子と診断されても、その後自然に頭位に戻る確率は低くありません。ある統計では、分娩時までには半数以上が自然に治っていたという報告もあります。 週数が進むにつれて確率は下がっていきますが、出産の直前にくるっと回る赤ちゃんもいますので、諦めずにリラックスして過ごすことが大切です。
逆子体操や寝る向き(側臥位)の指導について
産院によっては、「逆子体操(胸膝位など)」や、赤ちゃんの背中側を上にして横向きに寝る「側臥位(そくがい)」の指導が行われることがあります。 これらは昔から行われている方法ですが、実は「絶対に治る」という確実な医学的根拠があるわけではありません。しかし、リスクの少ない方法として「やってみる価値はある」と提案されることが多いです。お腹が張る場合は無理に行わず、医師の指示に従ってください。
医師が手で回転させる骨盤位外回転術
積極的な治療法として「骨盤位外回転術」があります。これは医師がお腹の上から手で赤ちゃんを押し、回転を促す処置です。 成功すれば経腟分娩が可能になりますが、常位胎盤早期剥離(胎盤が剥がれてしまうこと)などのリスクもゼロではありません。そのため、緊急帝王切開にすぐ対応できる体制が整った施設でのみ、医師と相談の上で実施されます。
胎位異常の場合の分娩方法
最終的にどのようなお産になるのか、胎位異常がある場合分娩方法について知っておきましょう。
帝王切開が第一選択となるケース
現在、日本を含め多くの国では、胎位異常(特に横位や多くの骨盤位)の場合、予定帝王切開が第一選択となっています。 これは、「経腟分娩で頭が引っかかってしまい赤ちゃんが酸素不足になるリスク」や「へその緒が先に脱出するリスク」を回避し、何よりも赤ちゃんの命を安全に守るためです。通常は妊娠37週〜38週頃に手術が予定されます。
条件付きで経腟分娩が可能なケース
すべての逆子が帝王切開になるわけではありません。「単殿位(お尻が下で膝が伸びている)」で、「赤ちゃんの推定体重が適切」「お母さんの骨盤が広い」などの条件を満たし、かつ逆子の経腟分娩に熟練した医師がいる施設であれば、経腟分娩が可能なこともあります。 ただし、リスクを考慮して実施できる施設は減少傾向にあります。
経腟分娩を予定していても、お産が始まってから「回旋異常でお産が進まない」「赤ちゃんの心拍が下がった」「破水してへその緒が出た」といったトラブルが起きた場合は、緊急帝王切開に切り替わります。 どのような分娩方法であっても、医療スタッフは母子の安全を最優先に対応します。
納得のいくお産のために
もし胎位異常から帝王切開となる場合でも、お母さんが命がけで新しい命を世に送り出すことに変わりはありません。「自然分娩で産めない」ことに対して、引け目に感じたり、悔しく思う必要は全くありません。 最も大切なゴールは、お母さんと赤ちゃんが元気に退院することです。妊娠がどのような経過を辿っても、赤ちゃんとの対面を楽しみに、妊娠生活を穏やかに過ごしていただくことが大切です。
医師からのメッセージ
胎位異常と診断されたお母さんは不安や責任を感じてしまう場合が多くあります。しかし、その原因はお母さんの努力不足や不注意などではなく、赤ちゃんの個性や環境によるものです。大切なのは産み方の形式ではなく、母子ともに安全に出産を終えることです。私たちはどのような状況でも、安全を最優先に、お母さんやご家族様が満足できるよう最善の選択肢を提案します。一緒に無事な出産を目指しましょう。
千葉西総合病院 産婦人科 幸本康雄
