妊娠・出産

産後うつの症状とは?自分を責めないための知識と対処法

産後うつ病とはどのような病気?

産後うつ(さんごうつ)とは、出産後のママに発生することがある本格的なうつ状態のことを言います。出産後はホルモンバランスが激変し、誰でも心が不安定になりやすくなることが知られています。産後うつ病は「母親の甘え」や「性格の問題」ではなく、誰もがかかる可能性のある病気です。約10人に1人のママが経験するとも言われており、決してあなただけが辛い思いをしているわけではありません。まずは自分を責めるのをやめ、心と体を休めることが大切です。

「もう少し頑張れば治る」と無理を重ねると、症状が悪化し回復までさらに時間がかかってしまうことがあります。ママの笑顔が消えてしまうことは、赤ちゃんの情緒発達にも影響を与えかねません。早期に適切なケアを受ければほとんどが快方に向かう病気です。家族や専門機関を頼ることは、赤ちゃんを守るための立派な母親としての行動です。

マタニティブルーとの違い

マタニティブルーは産後3〜10日頃に涙もろくなる一過性の状態で、通常は1〜2週間ほどで自然に落ち着きます。一方、産後うつ病は症状が2週間以上続き、日常生活や育児が手につかないほど重くなるのが特徴です。また時期としては産後3ヶ月以内に発症することが多いですが、産後1年以内であればいつでも起こる可能性があります。もし1ヶ月以上経っても気分の落ち込みが晴れない場合は、一時的なものではなく治療が必要なサインかもしれません。

マタニティブルー産後うつ病
発症時期出産直後(産後3日〜10日頃)産後数週間〜数ヶ月の間
持続期間数日〜2週間程度で自然に消える2週間以上ほぼ毎日続く
主な症状涙もろくなる、イライラするなど強い絶望感、意欲低下、不眠、自責感など
治療について原則として不要(休息と見守りで改善する)カウンセリングや服薬などの治療が必要

主な症状

具体的な症状が以下の通りです。当てはまる症状が2週間以上続くようであれば要注意です。

不眠や食欲不振などの身体不調

育児で疲れているはずなのに、赤ちゃんが寝ている時間になっても目が冴えて眠れない、あるいは眠りが浅くすぐに目が覚めてしまう「不眠」は代表的な症状です。逆にいくら寝ても起き上がれない過眠が出ることもあります。何を食べても味がしない、砂を噛んでいるようだと感じる食欲不振や、急激な体重減少も身体からの危険信号です。

・理由もなく涙が出たり、悲しい気持ちになる

・「自分はダメな母親だ」と自分を責めてしまう

・将来のことが漠然と不安でたまらない

・今まで楽しめていた趣味やテレビを見ても楽しくない

・物事を決める時に、なかなか決断ができない

赤ちゃんへの感情の変化や行動

最も辛いのは、我が子を「可愛い」と思えなくなることかもしれません。「泣き声を聞くのが怖い」「消えてしまいたい」と感じたり、時には赤ちゃんに対して攻撃的な衝動を覚えたりすることもあります。これらは愛情不足ではなく、脳が疲労して感情のコントロールができなくなっている症状の一つです。決して自分を追い詰めないでください。

・赤ちゃんが寝ていても、自分は眠れない(不眠)

・食欲が全くない、あるいは食べ過ぎてしまう

・頭痛や動悸、息苦しさを感じることがある

・赤ちゃんの泣き声を聞くと、逃げ出したくなる

・「消えてしまいたい」「自分を傷つけたい」と思うことがある

原因

 産後うつ病は、いくつかの原因が複合的に組み合わさって現れると言われています。それぞれの要因は身体の変化、環境の変化、そして性格や状況など誰にでもありえるものです。「私が弱いから」ではなく、産後は誰にでも起こりうる条件が揃ってしまいやすい時期なのです。

女性ホルモンの急激な変化

妊娠中に大量に分泌されていた女性ホルモンは、出産と同時にほぼゼロに近い状態まで急激に減少します。この「ジェットコースター」のような落差が、脳内の神経伝達物質のバランスを乱し、自律神経や感情のコントロールを難しくします。

育児による睡眠不足と疲労

3時間おきの授乳や夜泣き対応で、産後のママは慢性的かつ細切れの睡眠しかとれません。人間にとって睡眠不足は強烈なストレスであり、正常な思考力を奪います。交通事故に遭ったのと同じくらいのダメージを負った身体で、24時間体制の育児を行っているのですから、心身が悲鳴を上げるのはも当然と言えます。

環境の変化と育児状況

核家族化が進み、日中はずっと赤ちゃんと二人きりという「密室育児」も大きな要因と言われています。大人と会話する機会がなく社会から取り残されたような孤独感や、夫の帰宅が遅くワンオペ育児となる状況がママを追い詰めます。「完璧にやらなければ」という真面目な性格の人ほど、理想と現実のギャップに苦しみやすい傾向があります。

医療機関を受診する目安と判断

エジンバラ産後うつ病自己評価票

産婦人科の健診でも使用される「エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)」は、今の心の状態を客観的に知るツールです。「楽しみを感じるか」「自分を責めていないか」などの質問に答え、合計点が高い場合は専門的なサポートが必要な可能性があります。インターネットで質問票がダウンロードできますので、まずはチェックしてみましょう。

2週間以上症状が続く場合

気分の落ち込み、不眠、食欲不振などの症状が2週間以上続いており、家事や育児が思うようにできない場合は受診のタイミングです。「消えてしまいたい」「赤ちゃんを傷つけてしまいそう」という衝動がある場合は、期間に関わらずすぐに医療機関を受診してください。早めの相談が、あなたと赤ちゃんを守ることに繋がります。

産後うつ病の治療法と回復過程

医師によるカウンセリング・精神療法

医師や公認心理師とのカウンセリングを通じて、溜め込んでいた辛い気持ちを吐き出すだけでも心は軽くなります。また、「認知行動療法」などを用いて、自分を追い詰めてしまう物事の捉え方や考え方の癖を少しずつ修正していきます。第三者に話を聞いてもらい、共感してもらうことは、心の回復にとって非常に大きな力となります。

症状に合わせた薬物療法

 「授乳中だから薬は飲めない」と思い込んでいる方も多いですが、授乳中でも赤ちゃんへの影響が少なく服用できる薬はあります。もちろん、一時的に断乳して母体の回復を最優先するという選択肢もあります。薬は脳のエネルギー切れを補うための杖のようなものです。医師と相談しながら、今のあなたに最適な方法を選んでいきましょう。

環境の調整

産後うつ病の治療で何より重要なのは「徹底的な休養」です。薬を飲んでいても、無理をしていては治りません。家事は最低限にするか外注し、育児も家族・友人などに頼って、とにかく眠る時間を確保してください。脳を休ませることが最大の治療です。「何もしない」ことに罪悪感を持たず、今は休むことが仕事だと割り切りましょう。

身近に頼れる人がいなかったり、家族も忙しくてサポートが難しい場合もあるでしょう。そんな時は無理に抱え込まず、外部のプロを頼ってください。産後ケアセンターでの宿泊型ケアや、家事代行サービス、一時保育などを積極的に利用しましょう。ママと赤ちゃんを守るために、社会的な仕組みを頼ることは決して「手抜き」ではありません。

パートナーやご家族との関係について

産後うつはパートナーやご家族も含めて向き合うべき問題と言えます。コミュニケーションが希薄になったり、些細なことで口論になる、ご本人はとにかく辛いのにただの甘えと言われてしまうことによる孤独感など、さまざまな問題を引き起こす原因となります。

まずは無用なトラブルを避けるために「責めるべき相手はパートナーやご家族ではなく、疲労やホルモンバランスの乱れによる産後うつである。産後うつこそが共通の敵なのだ。」という認識をお互いに持つように心がけましょう。そのうえで、自分たちだけで解決しようとせず、意識して外部の助けを求めるようにしましょう。医療機関にかかる、行政機関の相談サービスを利用する、育児や家事をアウトソーシングするなど、産後の大変な時期を乗り切るための社会的なサポート制度は各種あります。それらを有効に活用して、パートナーシップを維持し、共倒れを防ぎましょう。

産後うつ病に関する相談先の窓口

「どこに相談すればいいのか分からない」「いきなり精神科に行くのはハードルが高い」という方もいるでしょう。相談先は病院だけではありません。身近な地域の中にも、あなたの話を聞いてくれる場所は必ずあります。一人で悩まず、まずは電話一本、メール一通でも良いので、外部と繋がるようにしましょう。

・地域の保健センターや子育て支援センター

・心療内科や精神科の専門クリニック

・産婦人科やかかりつけ医への相談

医師からのメッセージ

産後に気分が沈んだり涙が止まらなくなったりするのは、決してあなたの努力不足ではありません。出産という大仕事を終えた心身は、ホルモンバランスの激変や環境の変化によって、想像以上にデリケートな状態にあります。産後うつは誰にでも起こり得る「病気」です。一人で抱え込まず、まずは私たち医療スタッフにご相談ください。自分をいたわることは、決して甘えではありません。あなたとお子さんの笑顔のために、精一杯のサポートをさせていただきます。

千葉西総合病院 産婦人科 幸本康雄

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